喫煙者には、どうも二種類いるのではないかと思い始めたのは、高校の同級生に数年振りに会ったときのことだった。彼も煙草を吸うようになっていたが、私の吸い方を見て、
煙を肺の奥まで吸い込むんだねと驚いた。肺の奥まで吸い込むと咳き込むので吹かす感じで吸っていたらしい。そのときは、背伸びをしたスタイルとしての喫煙であり、これから喫煙者になるかの岐路に立っているにしか過ぎないと思った。
そして30年を過ぎた今、職場の同僚が、
禁煙を解いて喫煙を再開したら、鬱々とした気持ちが消失したと、明るい声で告白した。禁煙は軽い鬱状態になることもあるので、日々を楽しく過ごせるなら、それも選択のうちだねと応えたが、どうも違う。
昼間は吸わない、吸うのは家に帰ってから、禁煙したときも禁断症状などなく楽だったので、再度の禁煙も躊躇なくできる。詳しく話しを聞いてみると、彼は肺の奥まで吸い込まず吹かすタイプの喫煙者だった。
吹かし喫煙者への禁煙療法
同じグループに入れているが、吸い込むタイプと吹かすタイプの喫煙者がいる。前者は血中ニコチン濃度の低下が、後者は気分がトリガーになる条件反射だ。喫煙行為によって帰結する報酬回路という意味では同じだが、禁煙療法的には若干の違いがある。
数年前、厚労省の某参事官が喫煙者だったので、会議や執務中のストレス過多をよく耐えていると同情し、ニコチンガムで乗り切る方法を伝え、一錠を服用させてみたところ、ものの30分で苦くて耐えられないと吐き出したことがあった。
吹かすタイプの喫煙者は、何らかのトリガーがあり、
- タバコを取る
- 一本取り出す
- くわえる
- ライターに火を点ける
- 先端に火を点ける
- 軽く吸い込み吐き出す
- ニコチンによるドーパミン効果
この一連の連鎖がドミノ倒しのように流れることで達成感を伴う満足を得られることでは、吸い込むタイプの喫煙者と同じだが、トリガーが血中ニコチン濃度の低下ではないことが違う。
吹かすタイプの全例がニコチン依存症への単なる過程に過ぎないとだけ解釈するのは違うようだ。血中ニコチン濃度の急激な増加によって悪心などの不愉快な反応が起こり、結果的にタバコの吸い込みを抑制するメカニズムの体質保有者が一定程度いるように感じる。
いま主流のチャンピックスも以前のニコチンガムやパッチによる療法も、すべてニコチンに着目しているが、吹かすタイプの喫煙者には全く意味がない。むしろ、禁煙パイポ、無ニコチン電子タバコなどを使用した条件反射制御法が効果的であろう。ある意味では禁煙セラピーも似ているのかもしれない。
吸い込み喫煙者への禁煙療法
吸い込むタイプの喫煙者は、血中ニコチン濃度の低下がトリガーになるため、いわゆるチェーン・スモーキングになる傾向が強く、一日喫煙本数も2箱3箱とヘビースモーカーとなる。
このタイプの禁煙療法は、禁断症状という血中ニコチン濃度の低下に1,2日間、脳の代償的変化の数日を乗り切れば、あとは吹かすタイプの療法と同じものとなる。耐えて乗り切るのもいいが、ニコチン漸減法とでもいうニコチンガム、パッチなどがあるが、使い方を間違うと特にニコチンガムの場合にはニコチンガム依存症という新たな条件反射が成立してしまう。
無難なのはチャンピックスだけだろう。禁断症状にはニコチン類似効果があり、再喫煙にはブロック作用があるので、理想過ぎる薬剤である。
喫煙トリガーを無効化する擬似喫煙
血中ニコチン濃度の低下を除いても、喫煙トリガーはあらゆるシチュエーションで起きている。
- 運動のあと
- 風呂あがり
- 山頂に着いたとき
- 大仕事を仕上げたあと
- イライラしたとき
- 食事後のコーヒーを飲んだとき
- 考えがまとまらないとき
- ほろよい気分のとき
- 目覚めたとき
あげればいくらでも出てくる。人によっては喫煙所を見た瞬間、飛行機から降りたとき、山を見たとき、川のせせらぎを聞いたとき、雨が止んだときなど、日常生活のあらゆる場面で喫煙衝動が起きる。
喫煙衝動は、ブレックファーストならぬ禁煙ブレック衝動そのものがトリガー化してしまうのもあるが、ニコチンによる至福感を連想した衝動という本末転倒なもの、逃げのストレス回避手段もの、喫煙思い出しシチュエーションなど、あらゆるものがトリガーになっている。
平井愼二は、条件反射を制御するには、最終的な成果無しのドミノ倒しを反復体験させることが当該条件反射を抑制させ消失させると言っている。更に、抑制させる新たな負の条件反射を構築させる必要性も言っている。
形状もいいし、火が点いたように赤くなるし、煙も出るという電子タバコが擬似喫煙に最適な道具のように見える。小道具なしに擬似喫煙をイメージ化して最後に深く吸い込み吐き出すだけでも、条件反射のドミノ倒しが完成し至福感を感じる。タバコを吸わなくても擬似喫煙でも満足できることを体験すると、条件反射を制御した達成感が得られるのも面白い。
その繰り返しで、トリガーそのものの出現が少なくなってくると平井愼二は言うが、自らが実験台となり、実証しているが、平井理論がある程度裏付けられているのに驚いている。
参考文献:嗜癖行動に対する条件反射制御法研修会資料(平成23年12月、実技研修資料は省略)
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