ページ

2012/11/21

家賃込み月3万円で生活する男

S君と初めて出会ったのは、ヨットマンの小屋を訪れたときのことだった。

屋久島の晴れた夏の昼間なのに、二人が屋内で沈黙のまま携帯電話でインターネットを見ているのか黙々と操作している。

『誰?』
『S君。居候中』
『S君こんにちは』
『・・・・』

俗に言う、引きこもりか、挨拶しても返事もしないで携帯を操作している・・・・

その後、半年経ったころ、事情によりヨットマンが福岡に移住した。

残るは居候だったはずのS君。150坪の土地付き家の主となっていた。

生きるチカラがあるヨットマンが居なくなった屋久島で、引きこもり男が一人屋久島で生活していけるのか、気になる人は多いようで、アクセサリー販売屋、大工などなど島内の人々の応援で生きていた。

『どうやって生活しているの?』
『月の生活費は3万円。家賃が1万円、携帯代が1万円、食費が5000円、区費が1000円、電気代が1000円、その他3000円。屋久杉のアクセサリー売上が3万円。貯金は150万円あるので当分は大丈夫だよ』
『国民年金などは?』
『払わないよ、その頃には親も死ぬので遺産が入る』
居候を屋久島に呼んでいおいてヨットマンが勝手に福岡に一人で移住して、家賃一万円はS君はお人好しと感じた。

『家賃の一万円は相場から考えると高いじゃないかな?』
『実際は350万円で購入されたことになっており30年間毎月1万円を払えば自分のものになる』
『そういう話ならいいがヨットマンが死んだとき相続人とトラブルが起きるな。注意した方がいい』
親は裕福。親子のつながりが消失しているが崩壊はしてない。親は妾の子なので墓は無いが死ねば自分の責任で埋蔵する。本人は小学校から裏千家の修行を10年以上しており、大学は高野山大学。知ればそれなりの精神世界を持っているのに驚いた。

『150万の貯金はどうやって貯めたの?』
『ヨットのインストラクターをやっていた。時給は1万円だったのでお金には困らなかった』
『なんで来たの?』
『月に1万円で生活できるので来いと言ったから』

欲を捨て去ることで得られるもの


水道代は基本料金が600円が最低限必要だが、それほど使わないので解約した。水は清流から汲んでくる、

風呂は雨水。

ガスは不要、薪で十分。

玄米が基本で、ネギなどの野菜は庭に植えている、タンパク質は卵。

ステーキ肉、鱧など美味と言われるものを差し入れするが、貪欲に食べるものの、美味いものを食べるために生活スタイルを変える兆しは無い。

うまいものをたらふく食うために、毎日あくせく働き欲望にまみれるのもいいが、彼のような食に拘ない生き方の清々しさに、ふと引きこまれた。

生活費がかからないことから得られる幸せは彼にとっては大きい。


バイトやパートを軽くやれば月に10万近くの収入が得られるが、その仕事のために我慢しなければいけないストレスは大きい。彼は屋久杉を時間をかけて丁寧に磨いて、アクセサリー販売店に卸し、月に3万円の売上がある。

屋久島に来る前は、軽トラに家財一式を入れ、炊事から宿泊までしていたので、生活スタイルそのものが、誰にも依存しないで生きていける。その幸せを見つけたようだ。

朝夕は玄米を炊き汁物に卵や庭で採れた野菜を入れ、昼はスパゲティか棒ラーメン。煮炊きは薪なのでかなり時間がかかる。昼はアクセサリー作り、創意工夫を絶えずしている。夕方から寝るまでは趣味のウクレレ。

今の目標は、庭の隅に機織り作業所を作ること。老後の夢は子どもたち相手にウクレレ教室をしたいなどなど、最初に出会ったときに引きこもりとレッテルを貼ったが、話を聞けば聞くほど生身のひとを感じるようになった。

一週間後、


彼の家の前を通ったら、『松峯機織り工房』という看板が立っていた。やはり若いだけあって、実行力がある。

0 件のコメント:

コメントを投稿